日本内科学会雑誌
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不可逆性尿細管壊死により,長期血液透析を行なつている急性ブロム酸中毒の1例
桑原 隆金津 和郎土井 俊夫永井 博之大橋 博美吉田 治義
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1983 年 72 巻 4 号 p. 452-457

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抄録

ブロム酸カリ服用後,無尿・難聴をきたし腎機能の回復が得られず,慢性血液透析を続けている39才,女性の臨床経過と腎生検組織所見を報告する.発病後3カ月の腎生検で,糸球体は正常だが広範な尿細管上皮の変性・壊死を認めた.又多数の尿細管腔内にKossa染色で,黒褐色に染色されるCa沈着物が存在し同部の基底膜はPAM染色にて明らかな断裂像を示した.この様な所見は,他に報告がないが,尿細管がプロム酸塩による直接的障害から不可逆性壊死におちいつたものと考えられ,腎機能障害が持続する事を説明し得る.一般に急性尿細管壊死では上皮は再生され腎機能は回復するとされるが,重篤な例では不可逆性尿細管壊死がおこり腎機能も回復しないと考えられた.腎障害・難聴の外にブロム酸中毒の特徴に,発病後1カ月に発症し, 1~2カ月で自然軽快する両足趾の火傷様疼痛がある.又多くの例で精神異常を伴うとされ本例でも病初期に性格異常を呈した.長期透析により性格異常はなくなつたので,病初期の精神異常は反応性神経症と考えられた.

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