日本内科学会雑誌
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フロセマイド大量投与に起因したWernicke脳症と思われる1症例
小野 百合牧田 善二中山 秀隆中川 昌一田代 邦雄
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1983 年 72 巻 6 号 p. 791-795

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抄録

フロセマイド大量投与に起因したWernicke脳症と思われる1例を報告する.症例は51才,男性.糖尿病および糖尿病性腎症によるネフローゼ症候群にて入院した.入院時,栄養状態良好,全身浮腫著明.血中総タンバク3.7g/dl, BUN 48mg/dl,血清クレアチニン2.8mg/dl,尿タンパク5~8g/日.乏尿のためフロセマイド静注し,計7450mg,投与第16日目朝より意識状態低下した.神経学的に,意識は簡単な命令に応ずるも失見当識の状態から,痛みに対して顔をしかめる状態まで変動し,また軽度両側外転神経麻痺も存在した. Brain CT,血糖,電解質,腎機能,血中アンモニア,動脈血ガス分析値などの検査所見は正常または入院時と著変なく,サイアミン静注にて意識覚醒し,眼球運動も改善した.当日朝採血した血清ビタミンB1値は10ng/ml (正常値15~42ng/me)と明らかに低下していた. 1978年,由井らはフロセマイド投与によりサイアミン欠乏をきたした特発性浮腫の1症例を報告し,ラットへのフロセマイド投与実験にて,フロセマイドによる尿中へのサイアミン排泄増加を証明したが,我々の症例の様に意識障害をきたした例は未だ報告がない.

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