日本内科学会雑誌
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トロトラスト沈着症に合併した多発性骨髄腫の1例
森田 茂樹中田 恵輔室 豊吉古河 隆二楠本 征夫棟久 龍夫長瀧 重信石井 伸子小路 敏彦岡島 俊三
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1983 年 72 巻 8 号 p. 1068-1073

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抄録

トロトラストは,放射性同位光素232Thを主成分とする造影剤で網内系に取りこまれるが,生物学的半減期が200年以上であり,半永久的に体内にとどまる.このためトロトラストのα線内部照射による発癌率は高く,肝悪性腫瘍や白血病などの報告が多くみられる.多発性骨髄腫の合併は外国で7例報告されているが本邦では,まだみられない.本論文では,トロトラスト注入約40年後多発性骨髄腫を発症した71才,男性例につき報告する.本例は昭和14年トロトラストによる脳血管造影を受けた.昭和55年, M蛋白血症が出現し,急増したため昭和57年1月8日当科に入院した.腹部単純X線像および腹部CT像では,肝門リンパ節の石灰化様陰影と,レントゲン密度が増加し萎縮した脾臓がみられた.ヒューマンカウンターではトロトラスト原液と同一のγ線スペクトルを示し,肝組織像では褐色で光沢を有するトロトラスト顆粒が認められた.血清の免疫電気泳動像では, IgG型(κ型)のM-bowがみられ, 99mTc-MDP骨シンチグラムでは左腸骨と左第3, 5肋骨に集積像を認めた.胸骨骨髄穿刺では,異型性の強い形質細胞が7%存在し,左腸骨骨髄腫生検標本からは232Thの娘核種(212Pbなど)の放射能活性がみられ,トロトラスト沈着症に関係して発症した多発性骨髄腫の可能性が示唆された.

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