日本内科学会雑誌
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高度の後索変性とbrown bowel症候群を呈しビタミンE欠乏の関与が疑われる1剖検例
村山 繁雄多川 斉樫田 光夫田中 茂広瀬 敏樹
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1983 年 72 巻 9 号 p. 1187-1194

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抄録

ビタミンE欠乏が主因をなしたと考えられる全身リポフスチン沈着と,後索系一次知覚ニューロンの選択的脱落を剖検時認めた1例を報告する.症例: 29才,男性. 3才と9才時開腹術の既往を有し, 26才時低βリポ蛋白血症と低コレステロール血症を指摘された. 27才時より下肢末梢優位の知覚低下と腱反射の消失を示し, 28才時より悪心.嘔吐,体重減少を主体とする消化器症状が出現し, 29才時両者が急激に増悪,低栄養脱水状態と,脳神経を含み,深部知覚障害の強い多発性神経炎症状を呈して当院に入院した.脂肪,とくに脂溶性ビタミンの吸収障害を疑つたが証明できず,経過中突然原因不明の心停止をおこし死亡した.剖検時,術後腸管癒着,消化管固有筋層に著明な全身リポフスチン沈着(brown bowe1症候群)と後索・後根に強く末梢神経にも及ぶ一次知覚ニューロンの高度かつ選択的な障害が認められた.後二者はビタミンE欠乏症の病理像と酷似しており,保存血清で死後測定したビタミンE値も著しく低値であつた.術後腸管癒着による腸管機能低下が,低βリポ蛋白血症,さらに慢性的ビタミンE欠乏を招いた希な症例と考えられた.本例はBassen-Kornzweig症候群, Friedreich失調症との類似もみられ,脊髄小脳変性症, βリポ蛋白,ビタミンEの間に密接な関係が予想される.原因不明の後索症状や吸収不良症状をみた時には,血中ビタミンE値の測定も行なうことにより,症例の集積がまたれる領域と考える.

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