1984 年 73 巻 12 号 p. 1811-1817
クラスとタイプの全く異なる2峰性M蛋白とタイプの異なるBence Jones蛋白を認めた多発性骨髄腫の1例を報告する.症例は64才,男性で食欲不振と多尿を主訴として入院した.骨髄像で形質細胞は25%と増加し,頭蓋骨X線像で多発性骨打ち抜き像がみられた.血清蛋白は9.7g/dlと高値で,電気泳動でγ位にM蛋白を認めた.免疫グロブリンの定量ではIgG 5000mg/dl以上, IgA 622mg/dlと高値で, IgM 10mg/dlと低値であつた. 1日尿蛋白は2.4gでBence Jones蛋白が陽性であつた.以上より多発性骨髄腫と診断された.免疫電気泳動で2峰性M蛋白(IgG-λ, IgA-κ)と, λおよびκ鎖より成るBence Jones蛋白を認めた. 2峰性M蛋白の由来を知る目的で骨髄蛍光染色法を行なつたところ, IgG-λとIgA-κは別々の細胞群から産生されていることが判明した.臨床経過では,二つのM蛋白量は化学療法期間中8ヵ月にわたつて相反する特徴的な変動を示した(IgGは減少, IgAは増加). 2峰性M蛋白が分化したクローンか二つのクローンに由来していることが示唆された.また本症例ではBUN 120.2mg/dl,クレアチニン10.7mg/dlとかなり高度の腎不全の合併がみられたが,血漿交換をくり返し行ない, BUN 33.6mg/dlクレアチニン2.1mg/dlまで改善した.腎機能改善後の腎生検像では,尿細管にまばらに円柱形成を認める程度で,血漿交換の効果がうかがわれた.