日本内科学会雑誌
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偽駆出音を聴取した特発性肥大型閉塞性心筋症の1例
塩見 利明小林 正橘 秀樹蛯原 健二足立 学脇田 康志水谷 浩也渡辺 務
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1984 年 73 巻 12 号 p. 1842-1848

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抄録

僧帽弁逸脱症候群に,特微的と言われるmidsystolic click and late systolic murmurに類似した聴診所見を呈する46才,男性の,特発性肥大型閉塞性心筋症(HOCM;左室流出路圧較差46mmHg)の1例を経験した.本例の高調成分に富むmidsystolic clickは, HOCMに特徴的な心エコー所見である僧帽弁の収縮期前方運動(SAM)に関係しており, SAMが心室中隔に接触する時だけに発生する,いわゆる偽駆出音(pseudoejection sound)と呼ばれる希有な心音であることを確認した.この偽駆出音はI音から170msec遅れ,頚動脈波の高尖性な最初の頂点に一致して発生し,安静時やβ遮断薬服用時にはSAMの減少とともに聴取不能となつた.従つて,本例のような高調で聴取可能な偽駆出音の成因は,異常に肥厚しstiffnessを増した心室中隔に,収縮期の強い壁張力が加わつた状態で,僧帽弁の前尖および腱索が衝突するために発生するのであろうと考えられた.

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