1984 年 73 巻 5 号 p. 614-621
トレッドミル運動負荷試験による冠動脈病変の診断法を明らかにする目的で,正常安静時心電図を示す男性胸痛患者53名を対象とし,トレッドミル運動負荷試験と冠動脈造影を施行した.冠動脈の75%以上狭窄を有意病変とし,正常冠動脈群(18例),一枝病変群(17例),多枝病変群(18例)に分類した.運動負荷より得られた指標のうち, aVFのST低下のみは3群間で差が認められなかつたが,他の指標はいずれかの群間で有意差が認められた.判別分析を用いた解析の結果では,心電図変化のうちV5およびaVFのST傾斜の判別効率が大であつた. R波高変化は特性追加による判別効率増加の有意性が認められなかつた.心電図変化以外の指標では,運動持続時間,到達心拍数の判別効率が大であり,収縮期血圧は特性追加による判別効率増加の有意性が認められなかつた.判別分析による冠動脈病変の存在および重症度診断における誤分類の確率は,心電図変化のみ用いた場合21.8%, 28.1%に比し,心電図変化以外の指標を含めた場合,それぞれ6.7%, 15.2%ときわめて良い結果であつた.以上より,心電図変化ではST傾斜の診断意義が大であり, ST低下のみによる診断基準は不適当と思われた.しかし心電図変化のみによる診断では誤分類が多く,他の指標,特に運動持続時間と到達心拍数を診断基準に含める必要が認められた.これらの結果をふまえた実用的診断準としてpoint score法を試み,判別分析の結果と同等の診断能が示された.