日本内科学会雑誌
Online ISSN : 1883-2083
Print ISSN : 0021-5384
ISSN-L : 0021-5384
胸腺腫と種々の免疫異常を合併した重症筋無力症の経過中に比較的急性に発症した赤芽球癆の1剖検例
井上 敦池田 修一高 昌星柳沢 信夫長沼 邦明中畑 龍俊
著者情報
ジャーナル フリー

1984 年 73 巻 6 号 p. 817-824

詳細
抄録

重症筋無力疲および赤芽球癆はともに胸腺腫を高率に伴い,その発症機序として胸腺の機能異常に伴う自己免疫の関与が疑われている.今回われわれは,胸腺腫と種々の自己抗体陽性を伴った重症筋無力症の経過観察中約1カ月の経過で比較的急速に貧血が進行し,赤芽球癆と診断した1剖検例を報告する.症例は77才,男.昭和50年頃より眼瞼下垂,複視,易疲労性,嚥下障害が徐々に出現,昭和56年8月当科第1回入院, edrophonium chloride薬(Tensilon)静注により眼球運動障害および眼瞼下垂は著明に改善, Harvey-Masland試験にてwaning,抗Ach受容体抗体高値および胸部CTで胸腺腫陰影があり,胸腺腫を伴つた重症筋無力症と診断.またこの時抗核抗体,抗サイログロブリン抗体,抗マイクロゾーム抗体の高値も認めた.以後pyridostigmin bromide薬(Mestinon) 180mg/dにて外来で経過観察.昭和57年2月より約1カ月の経過でRBC 98万, Hb 2.7g/dlと著しい貧血が出現,末梢血および骨髄像より赤芽球癆と診断,ステロイド剤と免疫抑制剤の使用により貧血は改善したが全身の感染症を併発し死亡した.剖検では前縦隔に萎縮,縮小した胸腺腫がみられた.また本症例ではin vitro colony形成法を用いた検索により患者骨髄,末梢血中に赤芽球系前駆細胞であるBFU-Eはほぼ正常に存在するが,その増殖,分化過程に特異的に働く補体依存性抗体が患者血清中に存在することが示唆された.重症筋無力症,赤芽球癆,胸腺腫の合併は非常に希であり,種々の免疫異常を伴つており,興味ある症例と考えられた.

著者関連情報
© (社)日本内科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top