日本内科学会雑誌
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著明な高gastrin血症を呈したA型萎縮性胃炎を伴つた粘液水腫の若年女性の1例
前田 正人木嶋 祥麿坂本 龍金山 正明
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1984 年 73 巻 7 号 p. 995-1000

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抄録

症例は29才の女性で, 26才頃より耐寒性が低下し,皮膚が粗〓で便秘傾向であつた. 27才より無月経となり,甲状腺の精査を勧められ入院となつた.体温は35.2°C,甲状腺腫はなく,腋毛・恥毛は希薄であつた.心臓超音波断層検査で著明な心膜液の貯留を認め,甲状腺機能検査では, T3 3.5ng/dl, T4 0.3μg/dl, TSH 218μU/ml,基礎代謝率-56.5%であり,粘液水腫と診断された.一方,血清gastrinは6830pg/mlと正常の約70倍の高値を示し,末梢血で小球性低色素性貧血を認め,血清ビタミンB12は正常で,悪性貧血は伴つていなかつた.胃液検査では, basal acid output (BAO) 0.27mEq/h, maximum acid output (MAO) 0.28mEq/hと無酸症を呈し,胃底腺領域の生検所見は,萎縮性胃炎の像を呈していた.また,経口的胃内酸負荷では, gastrinは急速に低下したため,本例における高gastrin血症は,萎縮性胃炎に伴う負のフィードバックによると考えられた.本例では,抗甲状腺自己抗体が陰性であるが,一般に特発性甲状腺機能低下症は橋本病が成因と考えられ,一方type A萎縮性胃炎では,抗胃壁細胞抗体が陽性のことが多く,その進展に自己免疫現象の関与が唱えられている.悪性貧血も橋本病などの自己免疫疾患との合併が多く,その本体が萎縮性胃炎に伴うビタミソB12の吸収障害であることから,本例は,甲状腺疾患と胃病変の関連を考えるうえで示唆にとむ1例と考えられた.

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