日本内科学会雑誌
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腹部大動脈瘤手術後の輸血による移植片対宿主反応が疑われた高令者の1例
青木 泰子中村 治雄榊原 謙
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1984 年 73 巻 8 号 p. 1209-1216

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抄録

血液成分輸血が広く利用されるようになつてきた事実に関連して,血液ないし血液成分の輸血後に発生する移植片対宿主反応graft-versus-host reaction: GVHRが注目されてきた.これまでの症例は先天性ないし後天性の免疫不全症が背景にあり,免疫能が正常と思われる個体に輸血後GVHRが発症した報告はない本症例は66才の男性.腹部大動脈瘤,高血圧,痛風などがみられたが,免疫不全症を併発しやすい合併症はなく,経過中, lymphocytotoxic drugsは使用していない.腹部大動脈瘤の手術後,出血症状が出現, 7日間に13,000mlの輸血を施行された.最後の輸血日から6日後に高熱,引き続いて発疹,下痢,肝機能障害,骨髄低形成に基づく造血障害が出現し.発熱後6日目に死亡した.大量の輸血開始後12日目に臨床症状の出現, GVHRに高頻度にみられる一連の臨床像がみられたこと,骨髄生検組織像がGVHRの皮膚生検像に類似していることからGVHRと判断した.本症例では血液ならびに骨髄にlarge granular lymphocyteの増殖像がみられ,また,骨髄ではこの細胞群のcytotoxityを示唆する所見がえられた.輸血後GVHRでは低形成性骨髄像がみられると記載されているが, large granular lymphocyteが造血細胞を障害する像を詳細に観察できたのは本症例が第1例であると判断された.近年, immunosenescenceに関連した研究がされ,高令者リンパ球は同種リンパ球に対する反応力が低下すると言われ,本症例でもその病態が推測された.

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