1996 年 85 巻 6 号 p. 862-870
近年における,わが国の血液事業に与えられた課題は血漿分画製剤の献血による自給と,より安全を求めた血液製剤の供給である.血液の献血による自給は輸血用血液製剤は100%に,凝固因子製剤でもほとんどを献血で確保できる現在では,むしろ,その視点は血液の安全性に移されており,わが国の血液事業はあきらかに“量から質”への転換の時期に至っている.安全な輸血を求める以上,現状では同種血輸血の回避と自己血の推進をすすめねばならず,この範囲に血液事業が存在すると考えてよい.今後,ヒト血液によらない多くの代替血液輸血法が開発されることが予想されるが,とくに人工血液,造血サイトカインなどによる輸血の代替療法が近いうちに現実のものとなるであろう.しかし,これらの新技術はヒト血液による輸血を否定するものではなく,多岐選択的治療として共存して行くものと考える.より安全なヒト血液を求めると同時に今こそ献血の重要性を理解しなければならない.