1999 年 88 巻 8 号 p. 1548-1553
肝硬変症例の長期生存に伴い,肝発癌が生命予後を規定する重要な因子となりつつある.肝硬変からは年率7%の発癌がみられ,さらに初発肝癌根治治療後には年率25%の高率で二次発癌がみられる.肝発癌を予防する手段としては,肝炎ウイルスの排除に加え,レチノイド(ビタミンA誘導体)など化合物を用いる癌化学予防と, IFNαなど免疫調節物質を用いる癌免疫予防がある.我々は,レチノイドを初発肝癌根治治療後の症例に投与し,二次発癌の抑制に成功した.その際, 1年間の投与により発癌抑制効果は数年に及び,生存率も有意に改善させている.その機序としては,肝癌細胞のアポトーシス(細胞死)や分化誘導による癌細胞のクローン除去(clonal deletion)が示唆されている.今後は化学予防・免疫予防の併用も含めた,一次(初発)肝発癌の予防が急務である.