2004 年 93 巻 8 号 p. 1646-1653
急性肺損傷(acute lung injury, ALI)および急性呼吸窮迫(促迫)症候群(acute respiratory distress syndrome, ARDS)は,種々の原因の存在下に発症する透過性亢進型肺水腫で全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome)に基づく多臓器不全の一症状と考えられている.その臨床像は治療抵抗性の急性呼吸不全で,胸部画像上両側肺の浸潤影を呈する.左心不全は除外される.肺の陰影の分布は必ずしも均一ではなく,正常肺および正常に近い部分も存在する.このように不均一な病巣の分布が生じているため,陽圧換気による人工呼吸療法をおこなうと正常肺領域の肺胞に過度な膨張がおこり,それによる肺損傷(ventilator-induced lung injury)がARDSの病態をさらに悪化させることが解ってきた.従って, ARDSの人工呼吸管理には肺保護的な戦略が必要となる.現時点では,一回換気量は10ml/kg以下で,気道内圧は最高35cmH2Oまでとし,場合によってはPaCO2が60~80Torr程度までを容認するpermissive hypercapniaが妥当な呼吸管理とされている.高頻度換気や肺理学療法は多施設臨床試験で有用性はみられていないが試みる価値はありそうである.