抄録
本研究の目的は,校内授業研究会における新任教師の学習過程を「認知的徒弟制」の概念を手がかりに明らかにし,その初任者教育としての有効性を検討することにある。近年,校内授業研究会は多くの研究者や実践者の関心を集めているものの,そこにおける新任教師の学習過程を,長期縦断的に追跡した研究はほとんどない。そこで本研究では,2年間にわたる追跡調査を行い,校内授業研究会において,新任教師が熟練教師との相互作用を経て,どのように授業を省察する力量を形成していくのか,その過程を明らかにした。研究の結果は以下の3点に集約される。第一に,新任教師の語りのスタイルが,徐々に熟練教師のスタイルに類似するようになったこと,つまり同様の授業を省察する力量を形成しつつあることを確認した。第二に,熟練教師と新任教師の語りのスタイルが類似するということは常にポジティブに機能するわけではなく,場合によっては熟練教師のネガティブな特徴も一緒に学習される可能性のあることも明らかになった。そして第三に,校内授業研究会では,ある程度の経験を経ると,熟練と新任という固定した関係を超え,互恵的に学び合う関係が認められ,それが両者により深い授業の省察をもたらすことにつながっていた。