本稿では, 筆者らが最近行った脳神経科学実験を題材とし, 政治学における脳神経科学の方法の意義を考える。社会科学や哲学ではこれまで, 「無知のヴェール」 下で社会的平等につながる選択を行う動機付けとして, 「社会における正義の実現」 と 「個人のリスク回避」 という, 2つの相対立する想定がなされてきた。筆者らは, 平等の選択の背後にある神経基盤を解明することにより, この2つの動機付けが, 「今まで経験したことのない心理状態―他者の心理状態や将来の心理状態―に自身を置き想像する」 という神経過程を共有していることを明らかにした。このように脳神経科学実験の方法は人の行動の理解に資する一方, 政治学の行動分析の知見が神経科学実験に貢献することもわかった。特に, より現実社会の文脈に即した実験デザインや感情温度計などの行動指標による心理的態度の計測は, 神経科学実験に新たな視点を加えるものであり, 政治学の方法の有効性を示している。政治学の方法と脳神経科学の方法の融合により, 政治現象の理解がさらに深まる可能性が示された。