年報政治学
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《特集》
媒介/無媒介の境界
―カール・シュミットの主権論
西 平等
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2019 年 70 巻 1 号 p. 1_13-1_35

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抄録

本稿は、「主権者とは、例外状態について決断する者である」 という、カール・シュミットの主権の定義の意味を明らかにすることを目的とする。シュミットは、国家における主権の担い手という問題を回避する 「国家主権」 論への批判的視座を維持しつつも、規範主義や多元主義から提起された説得的な主権批判論に反論するなかで、この主権の定義を提示した。規範主義や多元主義が、国家を、法規範によって与えられた権限を行使する諸機関の集合体に還元することで、法を超越する主権国家という観念を批判したのに対し、シュミットは、規範なき決定としての 「例外状態に関する決定」 を主権者の指標とみなすことで、主権概念の再生を図る。このような主権論の背景には、媒介的世界と無媒介的世界の区別という秩序像がある。すなわち、他者の権限領域を尊重する適正な手続を通じてのみ、自らの価値や正義を実現しうる媒介的世界 (正常状態) と、そのような制約を度外視して、あらゆる事実的に必要な手段を用いて価値や正義を実現しうる無媒介的世界 (例外状態) との区別を基盤とする秩序像である。主権者は、その境界を司る者として定義される。

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© 2019 日本政治学会
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