本稿は、日本の技能実習制度や特定技能制度のような、「一時的労働移住制度 (Temporary Labour Migration Programs、TLMP)」 でなされる外国人労働者の権利制限の規範的な正当性を政治理論的に考察する。特に、国際機関の移住に関する近年の政策文書にも重大な影響を与え、TLMPの政策慣行において共有された根拠を体系的に示したM・ルースの正当化論に着目し、彼の論証を分析的に再定式化したうえで、批判的に検討する。具体的には、彼が提示した同意の自発性に訴える論証と、資源の希少性に訴える論証をそれぞれ検討する。TLMPはしばしば、外国人労働者と受け入れ国の人びとの間の取引や契約として捉えられる。したがって、筆者は、取引の妥当性を評価するために広く用いられてきた 「応報性の観念」 を、彼の正当化論が適切であるかどうかを評価する基準として採用する。この観念に基づけば、TLMPの妥当性は、外国人労働者が享受する利益が少なすぎるものでないかどうかで判断される。本稿は結論として、資源の希少性という、ルースが提示したもっとも説得的な根拠に照らしても、TLMPから外国人労働者が享受する取り分は少なすぎるため、外国人労働者の権利制限は正当化できないことを示す。