本研究では,ケニア西部ビクトリア湖岸地域に分布する大規模灌漑稲作地域(NIBスキーム)とアウトグローワーと呼ばれる小規模農家が稲作を営む地域3か所を対象に,稲作と稲作経営の実態を分析した.調査の結果NIBスキームとアウトグローワー・スキームとでは稲作の規模にも成果にも大きな差がみられた.NIB農家の作付水田面積は世帯当たり約1 haとアウトグローワーのほぼ2倍あり,イネの単収も4.5t ha-1と1.5倍以上高かった.この単収の差には肥料や農薬の投入量の多さに加え,除草の回数やタイミングも影響していると考えられた.このため世帯あたりのコメ生産量はNIB農家の方が多く,販売量も約3.5t/世帯であり,アウトグローワーではその約3割に留まった.稲作に投入した費用はNIB農家ではアウトグローワーの約2倍に及んでいたが,販売額から経営費を差し引いた現金所得でみると,アウトグローワーに対し5倍から最大26倍に差が及んだ.全ての対象地域において,経営費の中で最も高い割合を占めていたのは賃労費で,アウトグローワーでも費用の8割を賃労費に費やしていた.その一方で,肥料や農薬の購入費は非常に小さかった.アウトグローワーでは賃労費を確保するために貴重な財産である家畜を販売して捻出するなど生計基盤に影響する手段を取る農家も多くみられた.