津島佑子の「三ツ目」は、人間関係が作る心理的距離と身体的空間的距離という観点から読むことができる。それによって明らかにできるのは、親密な空間と距離で結ばれた人間関係の中に潜む恐怖である。「みる」という言葉がもつ多義性を用いて、人や出来事が見えない・わからないという恐怖と、見たい・わかりたいという願望を描いている。その恐怖から絶対的に逃れたいという願望が人ではない存在を作り出し、やがてその存在自体が恐怖そのものとなる。伝承の中に登場する〈一ツ目〉や〈三ツ目〉を用いて、現代の人間にも見ること・わかることへの恐怖と願望が生き続けていることを描いている。また、人と人との区別や空間と空間の区別が曖昧になって、さらに交換可能になっていくという現代的な恐怖を描いている。『逢魔物語』とは「魔」に「逢う」物語を意味しているから、「三ツ目」は『逢魔物語』を代表する一作といえる