日本文学
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和歌表現と制度(制度と表現,文学の部,<特集>日本文学協会第39回大会報告)
兵藤 裕己
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1985 年 34 巻 2 号 p. 54-66

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抄録

和歌をヨム行為を、近代的な意味での文学表現(expression)として捉えるなら、おそらく和歌史の最重要の基本線を見失なうことになるだろう。和歌をヨムとは、そのヨムという表現形式において、ヨミ手の個的な心・経験の表出を、共同的・祭式的なそれに転位する行為である。それは平安和歌においては、共有される古歌(呪的テキスト)の文脈-和歌的世界の共同性-に自己同一化する行為として現われる。それが貴族社会成員の共同性、その社会的アイデンティティを保証する根拠でもあった以上、和歌史の基本線は、和歌の共同性が(貴族社会の階級的危機の深刻化とともに)イデオロギー的に純化された過程として構想される。すなわち和歌史を構想する起点は、和歌表現の様式=制度それ自体につまりウタの発生時にまで遡るヨミの表現形式それ自体に求められるわけだ。そしてそのように和歌史の基本線を捉えたばあい、そのメルクマールとなるのが、古今集の成立であり、さらに後鳥羽院の存在だった、大凡そのような方向で考えてみた。

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© 1985 日本文学協会
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