1990 年 39 巻 3 号 p. 1-12
源氏物語に「天皇」という呼称はみられず、「うへ」「うち」「みかど」など、宮廷内部の私的な視点からの表現を基本とする。例外的な漢語系の「国王」「帝王」、そして藤壺と光源氏とを併称する「太上天皇に准ふ」を手がかりにして、物語の王権の文脈を読みなおしてみる。そこには、「限りある人」としての帝が、仏法ばかりでなく、祟り神や「もののけ」によって相対化されていた。なによりも、物語の心的遠近法による主題的な表現が、レトリックとしての王権を装置し、異化して解体していくのであった。