2006 年 55 巻 7 号 p. 2-11
『建礼門院右京大夫集』を取り上げ、十二世紀末の大動乱期を生きた一女房の時代認識と、その形象化の方法について考察した。戦乱以前の宮廷での経験は、家集編纂に際して、動乱を通して変容した視点から読み直され、左注や別時の詠作を取り合わせる等の構成を通して、歴史との関連づけられた形で提示されている。また、動乱期の経験を叙した箇所に見える、苛烈な状況に対する意識の変化を辿り、かつて時間を共有した人々の死によって失われた時代を、記憶の言語化により回復させようとする意志が家集編纂の契機をなし、その姿勢は叙述にも反映していることを述べた。