日本文学
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いかに近代文学をやり直すか(<特集>日本文学協会第64回大会(第二日目) <文学>との出会い方)
大塚 英志
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2010 年 59 巻 4 号 p. 25-35

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抄録

例えばアニメーション作家。新海誠はまず、小説に似たことばを連ね、それを自分で「声」として朗読し、その上に映像絵コンテを重ねていく。そんなふうに「ことば」や「小説」から立ち上がっていくアニメーションがある。あるいは発表者(大塚)が思春期の若者たち、あるいは時に医師を介して臨床の現場で「書きかけの絵本」を渡し完成させるワークショップ。そこでは一人一人が古典的で懐しい「成長の物語」を自ら描くことでささやかな自己治癒を果たしているように思える。「文学」とかつて呼ばれたものを「制度」と批判してみたところで古い文学に涙する学生たちを幾人も見る。「文学」について何かを語り、そして「文学」に何かを取り込み右往左往し、終わりや変容や脱構築を語る場所とは別のところで、「文学」の役割もその作法もいくらでも引き受けている場所がある。あるいは引き受ける方法がある。ただ、それを「文学」と呼ぶことはもう必要ない。必要なのは文学の役割であり、そう呼ばれることをめぐっての他愛のない何かでは多分ない。

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© 2010 日本文学協会
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