2012 年 61 巻 11 号 p. 35-46
本稿は、日本統治下台南の文学者、呉新榮(Goo Sin-ing)が残した日記などの資料を通して、一九三〇年代の植民地の地方都市における、ある作家の文学活動について概観するものである。東京留学から戻った呉新榮は、医業のかたわら、内地や台湾の新聞や雑誌、書籍を熱心に読み、地元の文学青年たちや台湾全島の文学者たちと文学団体を結成し、郷土を描く詩や郷土研究のエッセイを発表した。呉新榮の活動には、一九三〇年代における、台湾人作家による台湾文壇の成立――台湾人作家たちが、熟達した日本語を用いて、台湾人読者に向けて作品を書く状況の成立が刻み込まれている。