2012 年 61 巻 2 号 p. 1-13
本論では古事記中巻におけるホムチワケの出雲訪問に注目した。ホムチワケは「出雲の大神」の祟りを鎮めるために、出雲に派遣される。そこでキヒサツミによって「大御食」を献上されるが、それは「出雲の大神」への祭祀を描いているのである。
こうした祭祀は大和の天皇と関わっており、天皇の支配を語る中巻の構造において、「出雲」は「中心」に対する辺境の一地域に過ぎない。
だが、ホムチワケの「体験」に注目することで、それとは別の「出雲」を見ることができる。ホムチワケにとって「出雲」はイニシエーションをもたらす根源的な「他界」という意味を持っている。
ホムチワケの出雲訪問の中で構造の中に解消できない、シャーマニックな「体験」を見ることができるのである。