2013 年 62 巻 11 号 p. 24-34
昭和初期、雑誌や新聞上で「実話」が取り上げられ流行した。特に『文芸春秋』はいち早く「実話」欄を設置し懸賞実話を積極的に行って、「真実」を語る新しいジャンルを切り拓くことを印象付け、また雑誌を通じて読者が場を共有するあり方を演出することに成功した。しかし、この懸賞の当選作である橘外男「酒場ルーレツト紛擾記」は『文芸春秋』が演出した「実話」のあり方自体を相対化した挑戦的な作品となっている。本稿では、『文芸春秋』懸賞実話のあり方を考察した上で「酒場ルーレツト紛擾記」の魅力に迫りたい。