本稿では、中古和文資料を対象に、助詞カシの意味を明らかにする。
まず、カシの上接句の特徴を検討した。その結果、事実そのものも、事実であると確信しうるだけの根拠も他者と共有できない事柄(以下、非共有事項と呼ぶ)を表すものに限られることがわかった。次に、カシ自体が担う意味を擬似的不定化であると仮定した。ここまでの仮定は、終止形終止の例とカシの下接する例とにおける、助動詞の分布の違いを調査することにより、裏付けられる。
カシの意味を擬似的不定化と考えると、他の活用形や、助詞ゾにカシが下接した例についても説明できる。さらに、先行研究との関係についても、説明が容易になる。