抄録
今日の観光研究の一つの流れは〈持続可能な観光〉の要件を分析することに置かれている。その研究の主要な枠組は観光主体(観光客)と観光客体(観光地)との需給バランスをめぐるパラダイムであり, 需要側と供給側の要件を適正化することが〈持続可能な観光〉を考える枠組となっている。このパラダイムは観光を持続するための機能要件として議論の幅が狭く, 観光現象に限定している点で現実味が乏しい。観光現象や観光対象のほとんどは特定の地域空間に存立するもので, 〈持続可能な観光〉はその地域の環境・開発・コミュニティ・資源管理・都市基盤・文化特性などまちづくりの諸条件との関連で考察すべきである。このような基礎的な条件を欠くとき地域の風化と空洞化が進み, とくに地域特性を観光対象としている地域では観光それ自体を持続させることが困難となる。観光の持続性を保つには, 多様な条件のなかでもとりわけ環境・開発・コミュニティ(強いコミュニティ)の3つの要素にかかわる条件の整備が必要である。また最近, 観光公害による環境破壊など観光客と地域住民との利害の葛藤が問題となっており, 観光の持続性を保つために生活者と訪問者とが共存できるようなまちづくりを志向する必要がある。