愛国婦人会台湾支部機関誌『台湾愛国婦人』は台湾総督府政策履行の広告塔としての役割のみならず、一九一〇年代における在台日本人の文学創出を可能にした媒体である。同誌編集主任である加納抱夢が寄稿した小説「夢」は、夏目漱石「虞美人草」をはじめとする先行小説との間テクスト性が色濃いが、〈台湾帰りの男〉が東京の〈運命の女〉に裏切られるという設定や大正期の流行を取り入れて内容を更新しており、雑誌の主たる読者である在台日本人にリアリティのある〈夢〉を見させた。加納は「夢」を〈内地〉作家に伍する小説として雑誌の附録長編小説欄という目立つ場所に配置したと考えられ、実際にその自負に見合う水準を持つテクストの実態が確認できる。