鮎川信夫が「「アメリカ」に関する覚書」(「純粋詩」昭22・7)で提出した「一つの中心」という観念は、他者のフレーズを貼り合わせるようにして成立した詩篇「アメリカ」とともに、確たるイメジを結ばない。それゆえ、そのことの持つ意味についても、これまで十全に捉えられてはこなかった。本論では、鮎川らと同じくT・S・エリオットの歴史観に影響を受けた西田幾多郎が、戦時体制下に提示した「矛盾的自己同一」を補助線とすることで、「一つの中心」があえて論理化されず、あらゆる矛盾をそのまま差し出すための、いわば意思ある余地として機能していることの意義を明らかにした。