本稿は、夏目漱石・島村抱月・大西祝の文学論や批評論を取り上げ、それらを「同情」概念の観点から考察した。三者の文学論・批評論は鍵語として「同情」の語を共有し、その概念は、他者と同一化する原理(「同情的想像力」)と、自己や他者の言動を公平に判断し、評価する原理(「同情的公平性」)の二つの面を合わせ持っている。本稿は、このような共感性と公平性とを兼ね備える「同情」概念は、アダム・スミスに代表される一八世紀西洋道徳哲学における《sympathy》の原理と接触する中から、新たに再編・形成された可能性があるという仮説を提示した。一方で本稿は、三者の「同情」概念を明治二〇年代と四〇年前後の文学場や社会状況との関連で捉え返した上で、それぞれの「同情」概念の固有の特徴についても論及した。