日本近代文学
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論文
方法としての坂田三吉
――織田作之助の作品と将棋――
斎藤 理生
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2017 年 96 巻 p. 62-77

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抄録

本論では、織田作之助の作品における坂田三吉という存在の使われ方を考察した。織田は一九四三年の小説『聴雨』と『勝負師』で、坂田が端歩を突いた二つの対局を主に描きつつ、所々に「私」を差し挟み、両者を複数の水準で重ねている。その実験的な手法は、端歩という手を再評価する視座を提示している。一九四六年に書いた「可能性の文学」では、坂田が端歩で見せた将棋における実験性に、自分が今後行おうとする文学上の試みを重ねている。織田は小説における嘘や面白さの価値を主張すると共に、評論自体を嘘や面白さを備えたものにしており、坂田はそのために効果的に使われている。この評論は、後に坂田が再び脚光を浴びるきっかけにもなった。

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