日本近代文学
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論文
「後期の仕事(レイト・ワーク)」にあった「希望」
――大江健三郎の小説作品における死者とのコミュニケーションに着目して――
菊間 晴子
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2017 年 96 巻 p. 93-107

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抄録

大江健三郎は、一九九九年以降、自ら「後期の仕事(レイト・ワーク)」と呼称する小説群を執筆してきた。老作家・長江古義人を主人公とした大江の「後期の仕事(レイト・ワーク)」は、エドワード・W・サイードによる「レイト・スタイル」研究から深く影響を受けながらも、サイードの定義からは離れた独自の指針を有している。本稿は、サイードによる「レイト・スタイル」の定義を大江がいかに解釈し、再定義したのかを精査した上で、大江の「後期の仕事(レイト・ワーク)」が、彼の過去作品から連続する「二人組」構造の「書き直し」のプロセスであることを明らかにした。その上で、『取り替え子(チェンジリング)』、『さようなら、私の本よ!』、『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』に描かれる、生者と死者とのコミュニケーションのあり方の変遷を追い、『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』において提示される「集まり(コンミユニオン)」、そして「私ら」という存在様式―生者と死者の区別なき共同性―こそ、大江が「後期の仕事(レイト・ワーク)」の実践の先に見出そうとした「希望」である可能性を指摘した。

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