J・ボードリヤール『消費社会の神話と構造』の邦訳を契機として、一九八〇年代の日本には言説としての消費社会論が広まり、システムとしての消費社会が形成されていった。当時の夏目漱石のテクストの受容もそのような状況と無関係ではなく、角川文庫版漱石作品の表紙カバーとして採用されていたわたせせいぞうのイラストや、森田芳光監督による「それから」の映画化にも消費の力学を認めることができる。しかし、映画「それから」のアダプテーションには、女性表象やイメージ・ショットなどの点において原作の〈死後の生〉を見出すことができ、消費され得ない何ものかが表象されているとも言える。