日本近代文学
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論文
被害記憶への回路という欲望
――目取真俊「群蝶の木」論――
栗山 雄佑
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2018 年 99 巻 p. 80-94

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抄録

(要旨)本稿は、沖縄における戦時慰安婦の問題を描いた目取真俊「群蝶の木」について、現代の沖縄の部落においていかに過去の記憶を引き受けることが可能かを考察した。その方策として、主人公の男性は元慰安婦の女性との身体的な接触を、友人から聞かされた自殺した知人の情報を重ね合わせる。そして、彼が両者の姿、情報によって自身の心奥に〈何か〉が生じたことを知覚したことに注目する。その〈何か〉を読み解くためにアフェクトの概念を援用しつつ、主人公が得たものが他者の背景に対する〈わからなさ〉という無力さであることを明らかにした。この〈わからなさ〉を起点にすることで、慰安婦の女性の語りに誘発された一義的な読解を読み替える可能性が提示されていることを示した。

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