1971 年 92 巻 12 号 p. 1107-1112
アシドペンタアンミンコバルト(III)錯塩[CoL(NH3)5]2+の重合開始能とその酸基配位子の種類との関係をアクリロニトリルの熱重合と光重合について水溶液系で調べた。熱重合(60°C)においてはこれらの錯塩による重合速度は配位子の種類によって相当の開きがあり,つぎの順に小さくなる。N3->NO3->Cl->OH2>Br->NO2->I-, NCS-ヨード錯塩とチオシアナト錯塩では重合はまったく起こらない。この順序はこれらの錯塩の鉄(II)イオンによる還元反応の速度定数の大きさの順と一致している。光重合(30°C)ではこれらの錯塩の増感能はつぎの順である。N3->NCS->Br->NO2->Cl->OH2>I-, NO3-ヨード錯塩とニトラト錯塩では光重合は起こらない。この順序はアンミンコバルト(III)錯塩の光酸化還元反応の量子収率の大きさと必ずしも平行関係はない。しかし,ヨウ素の重合禁止作用やニトロラジカルによる一次ラジカル停止反応を考慮すると,錯塩の増感能と光還元の容易さとの関係を理解できる。これらの錯塩による重合に対してチオシアン酸カリウムは抑制作用を示すことがわかったが,クロロ錯塩による熱重合に対してはその少量の添加がむしろ重合速度を増大させる。これは錯塩の分解によってできた塩素ラジカルが電子親和力の小さいチオシアン酸イオンとのラジカル交換でチオシアン酸ラジカルを生じ,これが重合開始に寄与するためであろう。
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