誘導結合プラズマ発光分光分析法と機器放射化分析法とを併用して,中国や日本の古代貨幣中に含まれる主成分,副成分,微量成分13元素(Cu, Pb, Sn, Zn, Fe, As, Sb, Co, Mn, Ni, Au, Ag,Se)の定量を行なった。中国貨幣,日本貨幣とも主成分元素組成は,Cu-P-Sa系からCu-Zn系へと移行しており,移行年代は中国貨幣で15~16世紀,日本貨幣で18世紀であった。Cu-Zn系の貨幣におけるCu/Zn比は,中国貨幣でほぼ1,日本貨幣でほぼ4であった。日本貨幣では概してAs, Sbが多いが,これらの元素が他の主成分金属の不純物に由来するのか,あるいは故意に加えられているのかは,興味ある問題である。中国貨幣の中に微量元素組成が特徴的なものが数種あったが,とくにこのような貨幣は,原料物質の推定,鋳造技術の推定,流通当時の交易関係の推定に役立つと思われる。
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