本論文では,ケイ素化合物の持つ特異的な結合と反応性を量子化学的に明らかにするために,ケイ素化合物の原形としてシランを選択した。シランの分解によるシリレンの生成反応(1)SiH4→SiH2+H2と,シリ.レンのσ結合への挿入反応(2)SiH2+R-X-→R-SiH2Xは,化学蒸着(CVD)において重要な反応である。これらの反応は,反応(3)SiH4+R-X-→R-SiH2X+H2をシリレンの生成を経る2段階反応として考えていることに対応する。そこで,反応(1)と(2)について個別に行われた量子化学的研究を反応(3)の2段階反応として見直し,1段階反応であるシランの直接反応(R-X=SiH4,NH3,H20,SiH3OH)について得た著者らの結果と比較した。その結果,R-X=SiH4の場合はシリレンを経る2段階反応が,R-X=NH3,H2O,SiH30Hの時はシランの直接反応の方が速度論的に有利であることがわかった。シランの直接反応の有利性は,温和な条件下でのケイ素化合物の生成の可能性を示唆するものである。そして,Bader-Pearsonの摂動論からケイ素化合物の結合と反応性の特異性を説明することを試みた。