認知神経科学
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会長講演
認知神経科学一歩前
武田 克彦
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2009 年 11 巻 3+4 号 p. 203-212

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抄録

 中心後回の病変によって生じる体性感覚の障害について検討した。その部位の損傷によって、基本的な感覚が障害されることがあること、物品を触らせてそれが何であるかわからないという障害が基本的な障害がなくても生じることが明らかとなった。同じ中心後回の病変でありながら、このような違いがあることは、サルの中心後回には吻側から尾側という軸に沿ってヒエラルキーがあるという岩村の仮説があてはまると考えられる。次に消去現象のメカニズムの検討を述べた。消去現象は、主に頭頂葉の病変によって起きるが、そのメカニズム説として感覚障害とする説、注意障害とする説があった。健常例と消去現象を有する例に機能的MRIを用いて検討を行なった。その結果、消去現象の患者においても、健常者と同様に両側性刺激の場合両側の中心後回(S1)のみならずS2にも賦活がみられた。この結果は、注意障害説に合う結果と考えられた。一文字のかなの音読が可能な失語患者を対象に行なったところ、文字間隔を狭めていくと、読みの障害が増えることを見いだした。この結果について、一文字のかなに対応する永続的な記憶イメージが脳の中にあるという従来の考えでは説明できないのではないかと述べた。まとめとして、ピランデッロ戯曲を例にあげ、分析的思考や定量的評価やヒトの生物学の複雑なシステムの分析のみでなく、文学、言語、人間や社会の科学などを含む自由なアートの世界に目を向けることも今後重要ではないかと述べた。

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© 2009 認知神経科学会
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