認知神経科学
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シンポジウムI
脳卒中急性期と神経心理学
── 症候-病巣不一致時の考え方 ──
稲富 雄一郎
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2018 年 20 巻 1 号 p. 1-7

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抄録

【要旨】神経心理学的所見と画像検査上の病巣とが、既知の対応関係と照合して一致しない5例の症候-病巣不一致例を提示した。症例1は超皮質性感覚失語で発症したが、脳梗塞は左後大脳動脈閉塞による左側頭葉内側面のみに限局していた。SPECTではさらに側頭-頭頂-後頭葉境界領域に集積低下を認め、同領域のmisery perfusionによる症候と考えられた。症例2、左内包後脚梗塞により右片麻痺を来した。入院後に呼称障害、失書も発覚したが、病歴を再聴取し以前からの神経症候であり、認知症の併存が考えられた。症例3、流暢性失語を来したが、MRIでは新規病変を認めず、SPECTでは左側頭葉に集積増加を認めた。1年後にも同様のエピソードを右大脳に来した。前回の病巣は萎縮しており、いずれも不完全脳梗塞と考えられた。症例4、右大脳半球を焦点とする部分てんかん発作の重積状態により、連合型視覚性失認を呈したと考えられた。症例5、コルサコフ症候群で発症した。MRIでは新病巣はなかったが、門脈内血栓が確認され肝性脳症と診断された。症例6、Wernicke失語と考えられたが、梗塞は右上小脳動脈領域と中脳右傍正中部に認めた。SPECTでは左側頭葉から頭頂葉に集積低下を認めた。対側大脳半球への遠隔効果の可能性が考えられた。症候-病巣不一致症例では、 1. 他の症候で説明できないか、 2. 非梗塞化虚血領域が潜在してないか、 3. 遠隔効果で機能低下が生じてないか、 4. 別の疾患が潜在していないかの問いに答えた上で、はじめて5. 未発見の症候-病巣対応ではないかを議論する。

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