認知神経科学
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特集 前頭前野研究の拡がり
前頭前野研究の過去と未来
小林 俊輔
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2019 年 21 巻 1 号 p. 40-46

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抄録

【要旨】神経科学の進歩には臨床と基礎からの相互の貢献が重要であるが、前頭葉の研究では、実験室での成果が必ずしも臨床の場で再現されないという特異性がある。例えば、前頭葉損傷で社会的行動異常をきたす患者に実験室で心理検査を行っても必ずしも異常が検出されない。動物の脳損傷実験や生理学実験からは前頭葉の機能として作業記憶、抑制性制御、思考の柔軟性といった認知機能が前頭前野に関係することが示されている。しかし臨床症例では必ずしもこれらの機能の局在は明確に示されない。このように基礎と臨床の研究結果が乖離する原因としていくつかの要因が挙げられる。第一に同じ脳部位に病巣があっても前頭葉では他の脳部位より症状の個体差が大きい可能性がある。第二に前頭葉の病巣では局在より病巣の大きさの効果が他の脳部位より大きい可能性がある。第三に前頭葉損傷で出現する実生活での症状が複雑であり、単純な心理課題で捉えることが困難であるという要因がある。それでは前頭葉の機能はどのように理解したらよいのか、そして今後の研究はどの方向にむかうべきなのだろうか。本稿ではまず前頭葉研究の歴史的成果を簡単に振り返り、われわれの前頭葉機能の理解に大きな影響を与えたモデルを紹介する。そのうえで、今後の前頭葉研究の方向を考える上での課題を呈示したい。

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© 2019 認知神経科学会
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