認知神経科学
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招待講演
社会的認知の発達と可塑性
千住 淳
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2019 年 21 巻 3+4 号 p. 166-171

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抄録

【要旨】社会的認知や社会的行動の基盤となる脳神経機構に関する研究は、旧来の社会科学と脳科学の接点として、大きな研究分野を構築しつつある。中でも、社会脳がどのように発達するか、社会的経験がどのように社会脳の発達に影響を与えるかについての研究は、脳機能発達の基礎的理解にとどまらず、社会適応や社会的認知発達の障害事例に対する療育・介入手法の開発にも繋がることが期待される。本稿では、社会的認知発達の可塑性について、3つの視点から議論する。第一に、日英比較文化研究を通じて、文化的規範や文化的学習が社会的認知の初期発達に与える影響について、特に乳幼児期に焦点を当てて議論する。これらの研究から、顔処理に関わる文化的規範・文化的経験の違いが顔認知の発達に及ぼす効果は、発達の極めて初期に確認されることを紹介する。第二に、養育者との視覚的コミュニケーションの経験が社会的注意の発達に及ぼす影響について、視覚障害を持つ母親に養育された乳児の認知発達・脳機能発達に関する縦断研究に基づいて議論する。特に、視覚的コミュニケーション経験の違いが視線認知の初期発達及ぼす影響について、事象関連電位研究、眼球運動計測研究の結果を紹介する。最後に、これら社会的認知発達の多様性を担保する認知・神経機構について考察し、これらの研究が、自閉症をはじめとした社会的認知の非定型発達事例の理解に与える影響について議論する。

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© 2019 認知神経科学会
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