2024 年 9 巻 p. 1-27
家計にどれほどの税や社会保険料の負担がかかり、手当などの給付を受けられるのか、ということは、人々の大きな関心事であり、その制度設計は政策的に非常に重要である。しかし、税制・給付制度は複雑で全体像を把握しづらく、また、他国の情報を参考にすることも容易ではない。本稿では、OECDが各国の政策・制度の内容を収集して構築したOECD tax-benefit model(TaxBEN)を用いて、勤労者世帯における収入と純負担の関係を分析し、国際比較を踏まえながら日本の特徴を整理した。モデル世帯アプローチ(hypothetical family approach)に基づき2022年のデータでシミュレーションしたところ、以前から指摘されるように、日本は低中所得層において収入に占める社会保険料の負担割合が高いことが確認された。また、諸外国と比べると、日本は負担率全体の累進度が低く、高所得層ほど相対的に負担率が低くなることがわかった。この傾向は子どもの有無にかかわらず観察された。さらに、収入が児童手当の所得制限や所得上限を超えるところで負担率が上がる段差があることや、配偶者の働き方によって世帯の負担率が異なることも検証した。不公正な仕組みを是正し、税と社会保険を一体的に改革する必要性が示唆される。