1975 年 37 巻 1 号 p. 15-19
8才女児の両側頭部, 後頭部に境界不明瞭な“black dot”を呈する脱毛斑がみられた。病毛の直接検査, および走査電顕像から, 毛内性大胞子菌性寄生菌による頭部白癬と判定した。菌の集落はビロード状, 紫褐色を呈した。顕微鏡所見で, 多数の厚膜胞子, 菌糸の膨化をみ, また菌糸の側壁に多数の棍棒状ないし指状の長短様様の小分生子が直接あるいは短柄をもつて付着していた。発育試験ではthiamine添加により本菌はいちじるしくその発育が促進された。以上の所見から本症の病原菌をTrichophyton tonsurans Malmsten 1845と同定した。本菌による頭部浅在性白癬はまだ本邦では報告されていないが, われわれはかつて加藤らが記載した臙脂色菌はT.tonsuransにほかならないものと考えた