1976 年 38 巻 5 号 p. 763-766
67才農婦の左中指爪根部に生じたmucous cyst of the fingerを報告した。この嚢腫のために同指爪甲は縦溝様変形をともなつていた。この嚢腫を完全に切除し, 全層植皮術を行ない現在6ヵ月経過するも再発の徴候はまつたく認められないが, 同爪甲の変形は同様に存在している。組織学的に, 本嚢腫は表皮を圧迫するように真皮内にあるが壁構造は認められない。嚢腫の頂点に相当する表皮は著明に萎縮し, 嚢腫の周囲では, 真皮結合織線維間は浮腫状となり, 1部では裂隙様となつて, その裂隙が嚢腫へと連なつているようにみえる。嚢腫の周辺部には線維芽細胞のいちじるしい増加を認めた。組織化学的に, コロイド鉄に陽性に染色され, ヒアルロニダーゼにより消化される物質の沈着を嚢腫周辺部に認め, それらはヒアルロン酸であろうと思われた。一般検査ではとくに異常を認めなかつた。