症例は68才女子である。生下時より存在した左側頭部の脱毛斑部に2個の腫瘤が発生した。肉眼的に黄橙色をしめした腫瘤は組織学的検索の結果, 脂腺癌であり, 黒青色腫瘤は表在性基底細胞上皮腫, 脱毛斑は脂腺母斑であることがあきらかとなつた。3年後, 左側頸部のリンパ節腫脹がみられ, 生検の結果, 脂腺癌の転移であることが確認された。その後, 両肺野にも多数の転移巣が形成され, 呼吸困難におちいり死亡した。脂腺母斑上に発生した脂腺癌の報告はきわめてまれであり, 著者らの検索したかぎりでは, 本邦第2例目と思われる。本症例では, 従来, 脂腺癌の組織学的特徴とされていた表皮との連続性がないこと, 未分化細胞群が好酸性であることの2点においてことなり, これらの点について検討を加えた結果, (1)脂腺母斑を構成する脂腺は表皮直下に存在するため, 同部に発生した脂腺癌は容易に表皮と連続性をもつと考えられ, (2)好塩基性の細胞は, 電顕的にも豊富なリボソームを有しており, 腫瘍細胞の旺盛な生命力をしめすものであり, 好塩基性である必要はないと推察した。