1990 年 52 巻 1 号 p. 86-90
われわれは, 放射線影響研究所(長崎)における寿命調査拡大集団と腫瘍登録を用いて, 長崎被爆者皮膚癌発生頻度と推定被曝線量との間に統計的に有意な相関があることを明らかにした。また本シリーズの第3報では, 被爆者皮膚癌発生頻度と被曝距離との間にも高い相関を認めた。さらに第4報では, 近距離被爆者皮膚癌の増加率は, 1975年頃を境にして遠距離被爆者のそれに比べて有意に高くなつていることを報告した。本シリーズ最終稿としての本報告では, 長崎大学原爆資料センターに収録されている66,276人の直接被爆者をもとに, 長崎市内および周辺地区の31医療施設から収集した被爆者皮膚癌140症例について, 被爆者皮膚癌の特異性の有無について検討した。種々検討した中で唯一推計学的に有意差の認められたことは, 有棘細胞癌においては近距離被爆者群の被爆年令が遠距離被爆者群のそれに比べて若いということであつた。