西日本皮膚科
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症例
硝酸化学熱傷の1例
井上 雅子徳野 貴子加藤 りか池田 政身
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2012 年 74 巻 1 号 p. 15-17

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抄録

56歳,男性。硝酸運搬船で作業中に98%の硝酸で受傷,作業服と長靴を取るのに手間取り約10分後より流水で洗い流し,着岸まで約1時間風呂で水につかっていた。着岸後近医受診しワセリンを塗布され,約48時間後に当院を受診した。初診時,左上腕,両側臀部から大腿,両側下腿にかけて受傷部周囲に水疱形成がみられ,中心部は黒色から黄色の痂皮が付着したII度深層からIII度の化学熱傷,両側手掌は水疱を伴い黄色に変化した化学熱傷がみられた。血栓性静脈炎の既往があり,ワルファリンカリウム,アスピリンを内服していた。入院2日目より38℃から40℃の発熱,炎症反応高値であったので抗生剤投与を行った。発熱は4日後より治まり,内服中であったワルファリンカリウム,アスピリンを中止して入院10日目にデブリードマンおよび mesh skin graft 施行した。真皮深層まで壊死に陥っていたため,移植皮膚の定着が悪く再手術を必要とした。化学熱傷の治療では,速やかに長時間洗浄することと,可能な限り早期にデブリードマンを施行することが重要である。本症例では,硝酸の濃度が極めて高かったこと,着衣をとり流水で洗浄するまでに時間がかかったこと,当院受診までに約48時間経過していたこと,さらに抗凝固剤を内服していたためデブリードマンを施行する時期が遅れたことなど,様々な理由によって深い潰瘍を形成してしまい治療に難渋した。

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© 2012 日本皮膚科学会西部支部
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