膝関節周囲の外傷は日常診療で多く遭遇する疾患である.その中には,初診時レントゲン写真上は明らかな骨折を認めないが,追加検査にて骨傷を認める不顕性骨折症例も散見される.対象は当科で診断・治療した膝関節周囲不顕性骨折症例60例であった.年齢は15歳から96歳で平均71.5歳,男性8名,女性52名であった.受傷機転は,転倒が45例,交通事故が13例,スポーツ時および明らかな外傷歴のないものがそれぞれ1例ずつであった.診断は59例がMRIによって確定された.治療は全例を保存的に治療し,初診から8週の時点で82.1%に症状の消失を認めた.高齢女性に発症しやすく,その受傷機転は75%以上が軽微な外力によるもので,骨粗鬆症との関係が考えられた.高齢女性が転倒し,膝関節腫脹や関節血症を認める場合には,レントゲン写真上は明らかな骨折を認めなくても不顕性骨折を疑うべきであり,その診断にはMRIが有用である.