2007 年 104 巻 11 号 p. 1594-1600
ディスペプシア患者は多くの症状を持ち,またそれを的確に表現しているとは限らない.さらに症状は時間とともに変化していくことから,症状に基づいて治療薬を決定するという戦略は危険であり,ディスペプシア患者に対しては共通の診療アルゴリズムに基づいた科学的治療が必要であろう.わが国では,これら患者は慢性胃炎という保険病名の下で治療されており,個々の医師が自分の経験などに基づいて処方薬を判断しているが,その効果はほとんど検証されていない.著者はプロトンポンプ阻害薬を中心とする酸分泌抑制薬を第1選択とし,運動機能改善薬や精神神経作用薬を第2選択薬として用いるという治療戦略が望ましいと考えている.この背景にはピロリ菌感染率の減少,食事を含んだ生活習慣の欧米化などを原因とする日本人の酸分泌能の増加がある.この分野に関するわが国のエビデンスはいまだ少ないが,今後日本人でのエビデンスに基づいてディスペプシアに対する共通の治療戦略を構築していく必要がある.